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第180話 前なら切っていましたか

مؤلف: 八月 猫
last update تاريخ النشر: 2026-11-04 09:00:10

 皇ビジネスパートナーズの評価制度見直しが一区切りついてから数日後。

 帝人さんの午後の予定には、久しぶりに久我征一郎さんの名前が入っていた。

 以前、皇グループの案件で何度か顔を合わせたことがある外部コンサルタントで、穏やかな話し方をするのに、こちらが見せたくないところまで妙に目ざとく見ている人だ。

「お久しぶりです、倉橋さん」

「お久しぶりです」

「相変わらず皇社長の隣にいらっしゃる」

「秘書なので」

「ええ。そういう意味で申し上げたことにしておきましょう」

 この人は相変わらずだ。

 私はそれ以上拾わず、帝人さんの前へ資料を置いた。

 今日の本題は別のグループ会社に関する提携相談だった。久我さんが持ち込んだ案について数字と条件を一通り確認し、帝人さんがいくつか修正を求める。

 会議そのものは順調に進み、最後の確認に入ったところで、久我さんがふと別の資料へ視線を落とした。

「そういえば、皇ビジネスパートナーズの

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  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第180話 前なら切っていましたか

     皇ビジネスパートナーズの評価制度見直しが一区切りついてから数日後。 帝人さんの午後の予定には、久しぶりに久我征一郎さんの名前が入っていた。 以前、皇グループの案件で何度か顔を合わせたことがある外部コンサルタントで、穏やかな話し方をするのに、こちらが見せたくないところまで妙に目ざとく見ている人だ。「お久しぶりです、倉橋さん」「お久しぶりです」「相変わらず皇社長の隣にいらっしゃる」「秘書なので」「ええ。そういう意味で申し上げたことにしておきましょう」 この人は相変わらずだ。 私はそれ以上拾わず、帝人さんの前へ資料を置いた。 今日の本題は別のグループ会社に関する提携相談だった。久我さんが持ち込んだ案について数字と条件を一通り確認し、帝人さんがいくつか修正を求める。 会議そのものは順調に進み、最後の確認に入ったところで、久我さんがふと別の資料へ視線を落とした。「そういえば、皇ビジネスパートナーズの件は落ち着いたそうですね」「情報が早いな」「仕事柄、それなりには。評価制度まで手を入れられたとか」「必要だったから直しただけだ」 帝人さんは特に隠す様子もない。 久我さんは少し笑った。「真壁社長を残したのは、少々意外でした」 私は帝人さんを見る。「なぜだ」「以前の皇社長なら、もっと早い段階で経営責任を問われたのではないかと思いまして」「問題の原因が真壁一人ならそうした」「今回は違った?」「ああ。制度にも原因があった。真壁自身も結果を出しているし、問題を示したあとに修正を拒んだわけでもない。切る理由がない」 帝人さんの返事は簡単だった。 でも久我さんは、すぐには次へ進まなかった。「なるほど。やはり、少し変わられましたね」 帝人さんの眉がわずかに動く。「以前から、間違っていない人間を切った覚えはない」「そう

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第179話 数字が悪くなりました

     評価制度を変更してから一か月。 皇ビジネスパートナーズの最初の月次報告が届いた。 私は資料を開き、最初の数ページを確認したところで思わず手を止めた。「帝人さん」「何だ」「数字、かなり悪くなってます」 正式に報告された軽微な事故は前月の二倍以上。顧客からの苦情も増え、これまで「問い合わせ」や「現場対応完了」に分類されていた案件の一部が、正式な報告として上がるようになっている。 以前の基準で見れば、とても改善した会社には見えない。 帝人さんは私から資料を受け取ったものの、驚く様子もなくページをめくった。「予定通りだな」「予定通りって言える増え方ですか?」「ああ。制度を変えて一か月で問題そのものが倍になるわけがない。今まで見えていなかったものが上がってきただけだ」 そう言われれば、その通りだった。 私は改めて資料を確認する。 報告件数だけなら大幅に増えている。でも今回は、それだけではなく、発生から報告までにかかった時間や、現場で最初に行った対応まで記録されていた。「報告までの時間は短くなってますね。前は数日後にまとめて上がってたものが、今月はほとんど当日です」「そこを見るべきだ」 帝人さんが頷く。「悪い情報が早く上がれば、対処も早くできる。件数だけ減って、三週間後に同じ問題が十件見つかる方がよほど悪い」 さらに先を確認すると、同じ原因による再発事案には、本部側から改善担当が入るようになっていた。以前、三回繰り返しても現場だけで処理されていた設備不具合も、今回は二件目の段階で共有され、同型設備を使う別の事業所まで一斉点検が行われている。「帝人さん、これ……」「ああ。一件報告されたことで、別の拠点でも同じ劣化が見つかっている」「前だったら、それぞれ壊れてから直してたかもしれない?」「その可能性が高い」 数字だけ見れば、事故が増えた。 でも実際には、まだ事故になる前の不具合まで

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第178話 悪い報告を歓迎してください

     現場を見た翌日、皇ビジネスパートナーズの真壁社長と人事責任者、それから現行の評価制度を設計した担当者が本社へ集まった。 机の上には、現在の評価表と、過去二年分の部署別実績が並んでいる。 帝人さんは最初から制度をすべて作り直すつもりではなかった。「今の評価制度にも残す部分はあります。売上や利益を見ること自体は必要だし、事故や苦情を減らす目標も間違っていない。問題は、発生件数だけをそのまま評価へ結びつけたことです」 真壁社長が頷く。「報告した部署ほど、不利になる状態ですね」「ああ。そこを外す」 人事責任者が資料へ書き込みながら確認する。「では、事故や苦情の報告件数を評価項目から削除する、ということでしょうか」「全部は削らない」 帝人さんはすぐに答えた。「実際に問題が多い部署まで同じ扱いにしたら、今度は管理責任が見えなくなる。見るべきなのは、件数だけじゃない」 私は横で聞きながら、現場で会った男性社員のことを思い出していた。 彼は問題を起こしたくて黙っていたわけではない。報告した方が損になる制度の中で、それなりに合理的な判断をしただけだった。「じゃあ、何を評価するんですか?」 私が聞くと、帝人さんは評価表の余白に線を引いた。「発生したか。早く報告したか。同じ原因を繰り返したか。報告後に改善したか。この四つは分けて見る」「一件の事故でも、全部同じ減点にはしない?」「ああ。例えば、本人に防げない設備故障を見つけてすぐ報告し、原因まで特定して再発防止につなげた人間を減点する理由はない。逆に、軽微だからと放置して同じ問題を十回繰り返したなら、件数が少なく見えても評価は下げるべきだ」 人事責任者が少し考えてから言う。「それなら、早期報告を加点対象にする案はいかがでしょうか」「単純な加点にはしない」 帝人さんが即座に返した。「報告一件につき何点、のような制度にすれば、今度は報告件数を増やす方が得になる。現場で解決で

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第177話 言わなかった人だけを責めません

     皇ビジネスパートナーズの現場を訪れたのは、それから二日後だった。 今回向かったのは、法人向けの設備管理や清掃業務を担当している事業所の一つ。真壁社長には事前に訪問することだけ伝えていたものの、時間までは細かく指定していなかった。 帝人さんが来るからといって、普段と違う状態を作られたくないからだ。「帝人さん、思ったより普通ですね」 事業所内を見回しながら言うと、帝人さんがこちらを見る。「何を想像していた」「もっと緊張してるかと思ってました。皇社長が来るって分かってるなら、皆さん固まってるかなって」「それなら来る時間を知らせなかった意味がない」 確かに。 受付や管理担当者は多少緊張しているようだったけれど、現場そのものは普段通り動いているように見えた。 帝人さんは責任者から一通り説明を受けたあと、報告フローについて確認した。「軽微なトラブルが起きた場合、どこまで上げます?」「現場責任者で処理できるものは、基本的にその場で対応します。顧客影響が大きい場合や、同様の事案が続いた場合は本部へ報告します」「続いた場合、という基準は?」 責任者が少し迷った。「明確に何件という決まりは……ありません。現場判断です」 帝人さんはそれ以上追及せず、実際の記録を見せてもらうことにした。 そこで出てきたのが、先日資料でも確認した同種の設備不具合だった。「この三件、原因は同じですか?」 帝人さんが聞くと、担当していた男性社員が答えた。「はい。部品の劣化です。ただ、交換すればすぐ復旧できたので、重大なものではないと判断しました」「三回とも?」「はい」「本部へは?」「上げていません」 その場の空気が少しだけ変わる。 男性社員も、それを感じたらしい。表情が硬くなった。「申し訳ありません。私の判断です」 すぐに頭を下げた。

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第176話 結果だけなら優秀です

     皇ビジネスパートナーズの社長が本社へ来たのは、翌日の午後だった。 名前は真壁社長。五十代半ばで、現在の会社を任されてから三年になる。その間に売上と利益を伸ばし、赤字だった一部事業も整理した実績がある。 少なくとも、数字だけを見れば優秀な経営者だった。「今回の資料については拝見しました」 真壁社長は席へ着くと、帝人さんをまっすぐ見た。「皇社長が懸念されている点も理解しています。ただ、最初に申し上げておきたいのですが、現行制度へ変更してから業績が改善したことも事実です」「そこは否定していません」「売上は六四半期連続で計画を上回り、営業利益率も改善しています。重大事故は発生しておらず、主要顧客の契約継続率も上がった。現場処理の件数だけを見て、制度そのものが誤りだったと判断されるのは早いのではないでしょうか」 予想していたより、かなり強く出てきた。 でも帝人さんは表情を変えず、机の上に置いてあった資料を一つ開いた。「俺も、制度そのものが全部間違いだとは言っていません。結果を出した部分まで否定するつもりもない」「でしたら――」「その結果が、何によって作られたのかを確認しています」 真壁社長が言葉を止める。「売上が伸びた。利益も増えた。そこは成果です。一方で、設備更新費は一八%減り、研修費も削減され、離職率は上がっている。正式な苦情と事故報告は減っているのに、現場処理された同種のトラブルは増えている。この状態で利益だけを見て、『効率化に成功した』と結論づけるのは早いでしょう」「設備更新については、安全上問題のないものだけを先送りしています。研修も内容を見直し、不要な集合研修を減らした結果です」「それなら、その判断自体は問題ありません」 帝人さんはあっさり認めた。 真壁社長が少しだけ意外そうな顔をする。「俺が聞きたいのは、削ったことではない。削った結果として何が増えたかまで見ているかです。設備更新を一年延ばして今期の費用が減ったとしても、来期に故障率が上がれば、その費用は消

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第175話 報告しなければ失敗になりません

     皇ビジネスパートナーズから評価制度に関する資料が届いたのは、翌日の午後だった。 部署ごとの評価項目、管理職査定、問題発生時の報告フロー。それぞれを単体で見れば、特別おかしな制度には見えない。 売上目標の達成率。 利益率。 顧客満足度。 業務上の事故や苦情の発生件数。 どこの会社にもありそうな項目が並んでいる。 でも、前回までに見つかった資料と一緒に並べると、引っかかる部分があった。「帝人さん、これじゃないですか?」 私は管理職評価のページを開いた。「事故や重大な苦情が発生すると、部署評価から減点されるようになってます」「ああ」「しかも、正式報告された件数がそのまま評価に入るんですね」 例えば、同じような小さな設備不具合が三件起きたとする。 三件すべてを正式に報告すれば、部署側には三件分の記録が残る。 でも現場で処理し、本部へ上げなければ、その数字には入らない。「これって……」 私は別の資料も確認した。 顧客対応の評価も似ている。正式な苦情として登録された件数は評価対象になるが、「問い合わせ」や「現場対応完了」に分類されたものは対象外だった。「報告すると、数字が悪くなるんですね」「そういう設計だな」 帝人さんは資料を見ながら、淡々と答えた。「でも、問題を早く見つけて報告した人も減点されるんですよね?」「ああ。原因が本人にあるかどうかはほとんど区別されていない」「それなら、自分から言いたくなくなりますよ」「そうなる」 私は少し黙った。 誰かが「隠せ」と言ったわけではない。 でも。 正直に報告すれば、自分の部署の評価が下がる。 管理職なら、自分の査定にも響く。 逆に、現場だけで処理してしまえば、評価上は何も起きていないことになる。「&

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